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Les aiguilles rouges エギュイユ・ルージュ/リーダーの判断

フランス映画 (2006)

エギューユ・ルージュ(赤い針峰群)は、シャモニーの北〔モンブランやエギューユ・ド・ミディとは、谷を挟んで反対側〕に連なるアルプスとしては低い連山〔最高峰2965m〕。その中で一番有名な山は、シャモニーからロープウェイの乗り継ぎで直行でき、モンブランの展望台にもなっているル・ブレヴァン〔Le Brévent、標高2525m〕。この山岳映画は、1960年に実際に起きた12~16歳の少年たち8人によるル・ブレヴァン登山と、その後の遭難を描いたもの。DVDの特典映像で当時の写真と新聞記事が出てくるが、英語字幕がついておらず、新聞記事も見出し以外はボケで読めないので、事実と映画がどの程度乖離しているかは分からない。新聞記事は3つ。「ディオザス渓谷で48時間不明/捜索にもかかわらずボーイスカウト見つからず」「軽率な登山?/雷雨のル・ブレヴァンで憲兵隊と警察が14歳のボーイスカウトを捜索」「ル・ブレヴァンで行方不明のボーイスカウトのジョエル・メルカダル、生きて発見/負傷し、ディオザス渓谷で2昼夜を野宿」。最後の記事は、18/7/60の日付。映画では、24/9/60なので、2ヶ月ずれている。これは、撮影時期が初秋で紅葉が始まっていたためであろう。遭難した少年の名前は映画ではエリックとなっている〔実話の映画化の場合、著名人以外は名前を変えることが通例〕。この記事から、1人のボーイスカウトが、ル・ブレヴァン北のディオザス渓谷で遭難し2日後に助かったという点は映画と一致している。そして、あらすじの最初に示すように、ボーイスカウトの「豹隊」〔映画では「鷲隊」〕のメンバーの雰囲気も、写真から判断して映画とかなり一致している。もちろん、メンバーの来歴や、映画の中での会話は創作だろうが、「豹隊」の取った行動は事実を追っているに違いない。そうでなければ、南のシャモニーからル・ブレヴァンを目指した「豹隊」が、反対側の危険な渓谷に近づくはずがない。1960年は、アルジェリアの独立戦争の真っ只中。ド・ゴール大統領がアルジェリアの独立を認めた時期にあたる。映画はこうした時代背景を強く打ち出している。なお、だいたいの場所を示すため、私の所有する1万分の1の登山地図をスキャン合成したものを添付する。実際にどこを歩いたかは分からないし、避難小屋の場所も定かではないが、最もありそうなルートを示す。

1960年9月、フランスがアルジェリアの独立を認めることに傾いていた時期、そのアルジェリアと関係を持った3人を含む計8人のボーイスカウト団員が、シャモニーの北に聳えるル・ブレヴァンへの登山を、団の指導者から命じられる。しかし、その指導者は登山のことは何も知らず、地図に記載されていた山稜の非難小屋で一泊し山頂を目指すよう指示する。8人のリーダーで最年長のパトリックをはじめ、その他のメンバーも登山経験はほぼゼロ。そうした無謀な状況で、登山は開始される。8人の中には、パトリックに対抗心を燃やしてことごとく反抗するエリックもいれば、暴力的でひねくれたジャン=ピエール、意地悪をすることに生き甲斐を感じているタターヴもいる。一番真面目なのは、アルジェリアから家族ごと逃げてきたユダヤ人のリュック。残る3人は、最年少のラスイユ、自分勝手なギーに体の弱いブルーノ。彼らは、お荷物にはなっても役には立たない。登山が順調だった初めの頃は問題のなかった混成チームだが、登山に不慣れなパトリックが、正しいルートを進んでいるかに不安感が生じた時、一気にバラバラになる。対抗意識を燃やすエリックは戻ることを主張し、パトリックは強引に進もうとする。それでも、最終的には山稜の非難小屋に到着する。しかし、その小屋が閉鎖されていたため、間違った場所に着いてしまったと思ってしまう。本当は、指導者のミスで、小屋は元々閉鎖されており、パトリックは正しく誘導してきたのだが、本人を含め、団員にはそのことは分からない。行き場を失ったパトリックは、地図を見誤ったのか、山稜の反対側(北西)にあるセルヴォスの村めがけて下山しようと決断する。最大のミスだ。一行が山稜を少し下ったところで暗くなり、ビバークを強いられる。翌朝、慣れないパトリックは2つ目のミスを犯す。渓谷に沿って道なき道を下ろうとしたのだ。この試みは途中で頓挫し、ルートを見つけるため二手に分かれる。その一方のリーダーとなったエリックは、残る3人を無視して勝手に先に進んで行き、最後は谷に滑落して負傷する。残りの3人は途中で引き返し、同じく途中であきらめたパトリック達と合流する。2人の年少者が疲弊する中で、パトリックは、いなくなったエリックを見捨てて引き返すことを決断する。そして、途中の廃棄された小屋に5人を残すと、体力のあるジャン=ピエールと2人で救援を求めて南側に下山する。翌朝、シャモニー警察はル・ブレヴァン経由で5人を救助し、次いでエリックの捜索に向かう。しかし、捜索は困難を極め、その日はあきらめる。翌日、エリックの携帯品が渓谷で見つかったことで、空からの捜索が行われ、エリックは発見されて無事救助される。

8人の隊員の中で紹介するのは、リュック役で、フランスの子役として活躍度の最も高いジュール・シトリュク(Jules Sitruk)と、最年少の隊員ラスイユを演じたジュール・アンジェロ・ビガルネ(Jules Angelo Bigarnet)。シトリュクは1990.4.16生まれなので映画出演時は15歳。ビガルネは1993.12.13生まれなので11歳。彼は、『アルプスの少年/ぼくの願い事』(2004)に主演した他はTV中心に活躍している。他の隊員を年齢順に並べると、ジャン=ピエール(19)、パトリック(17)、タターヴ(16)、エリック(15)、ギー(14)、ブルーノ(14)となる。リュックがエリックと同じ年とはとても信じられない(あらすじの1枚目の写真と、2枚目の左端の写真)。ジャン=ピエール役のDamien Jouillerotは、『Les fautes d'orthographe』(2004)で注目されるが、その後はTVで活躍。パトリック役のJonathan DemurgerもTV中心。タターヴ役のRaphaël Fuchs-Willigは、『プセの冒険/真紅の魔法靴』(2001)にピエロ役で出演していた子役だが、この映画が最後となった。エリック役のPierre DerenneはTV中心だが活躍度は少ない。ギー役のCésar DomboyはTVと映画(脇役)が半々。ブルーノ役のClément ChebliはTVだが2009年で終えている。


あらすじ

映画の冒頭、ボーイスカウトの「鷲団」のメンバー8人が紹介される。最初が、ジュール・シトリュク演じるリュック(1枚目の写真)。配役リストでも紹介もトップだが、主人公ではない。出番はそれなりに多いが、「雑学に詳しく、よく気のつく模範的な隊員」という存在。次に年輩の3人が紹介される(2枚目の写真)。左から、Pierre Derenne のエリック(遭難者)、Jonathan Demurgerのパトリック(リーダー)、Damien Jouillerotのジャン=ピエール(はぐれ者)。パトリックはカメラを構えている。そして、もう1人の子役がジュール・アンジェロ・ビガルネ演じるラスイユ(3枚目の写真)。最年少の団員。最後に残りの3人が紹介される(4枚目の写真)。左から、Raphaël Fuchs-Willigのタターヴ(笑わせ役)、César Domboyのギー(自分勝手)、Clément Chebliのブルーノ(体力弱者)。そして、5枚目の写真は実話の「豹隊」のメンバー。左から、本名ではなく配役名で、リュック、エリック(カメラを下げている)、ブルーノ、ギー、タターヴ(おどけている)、ラスイユ(一番幼い)、パトリック(リーダーなので旗を持っている)の順。ジャン=ピエールは映っていない。「豹隊」の中ではエリック〔本名ジョエル・メルカダル=遭難者〕がカメラ好きなのだが、映画ではそれがパトリックに代わっている。
  

  



リュックは、仏領アルジェリアに住んでいるユダヤ系フランス人。祖国の情勢が心配なのでラジオのニュースに耳を傾けている(1枚目の写真)。「ニュース速報です。北アルジェリアで、待ち伏せにあって8人の兵士が殺されました。パトロールの車両は…」〔これは、映画の最後の方で、ジャン=ピエールが読む新聞記事に関わっている〕。その時、登山電車の警笛が響く。ジャン=ピエールが、線路上の4人を見て、「お前らバカか? どけ!」と飛んで行く。4人は、レールの上にコインを並べて遊んでいたのだ(2枚目の写真、黄色の矢印はコイン、赤の矢印は電車の前照灯/あらすじの最初の人物紹介で、3枚目のラスイユは手にコインを持っている)。レールに置いてあったコインのうち1枚がジャン=ピエールの額を直撃する(3枚目の写真)。
  
  
  

標題の後、1960年9月20日(火)と表示される。山腹にあるボーイスカウトのキャンプでは指導者がジャン=ピエールの額に当たったコインを示し、「このせいで、目が潰れかけた。鷲隊に必要なのは元気の捌け口だ。いいだろう。君らに、山歩きを してもらう。ル・ブレヴァンを知ってるか?」と問いかける。さっそくリュックが答える。「標高2525メートルで、モンブランの反対側にあります」(1枚目の写真)。「そうだ。君達はシャモニーから登るんだ」。リュックは、まさかといった感じで、「歩いて?」と訊く。「絨毯にでも乗るか?」。指導者は、今日中にシャモニーに降り、明日の明け方にル・ブレヴァンに登るよう指示する。「避難小屋で一泊して山頂に向かう」(2枚目の写真)。シャモニー〔標高1036m〕からル・ブレヴァンに登る安全なルートは、シャモニーから西に向かって山稜のベル・ラシャ小屋(refuge de Bel Lachat)〔標高2136m〕まで登り、そこから尾根に沿ってル・ブレヴァン〔標高2525m〕に北上するルートだ。道に迷うことのない初心者ルートだ。指導者は、このルートのことを指示したのであろう。解散した後で、ジャン=ピエールがタターヴに絡む。「お前が、レールにコインを置かなきゃよかったんだ!」。「俺のコインじゃない」。ジャン=ピエールはタターヴを徹底的に嫌っている。郵便物が配布される。1人だけ小包があった。それはリュック宛て。渡したギーが、「もし、お菓子だったら 少しくれよ」と声をかける〔彼は 甘いもの好き〕。タターヴがパトリックに「俺には何もない?」と訊くと、ジャン=ピエールに 「トンカチ野郎に、そんなモンあるかよ」と言われる。ジャン=ピエールはリュックの箱の中身を見て、「それ、ユダヤのか?」と訊く(3枚目の写真、矢印は箱)〔映画の後半に出てくる「ハヌカのドーナツ」を見ての発言だろう〕。その後、一行は登山電車に乗って山を下り、シャモニーに向かう。
  
  
  

シャモニーのスケートリンクではラスイユの姉イザベルがフィギュアの練習をしている。「鷲団」の全員も一緒に見ている(1枚目の写真、イザベルが好きなエリックは左端。ひねくれ者のジャン=ピエールだけは新聞を読みふけっている)。練習が終わった後は、イザベルを交えて全員でシャモニーの通りを歩く。映画館では『大人は判ってくれない』を上映している〔1959年6月の公開なので、1年以上遅れている〕。しかし、映画は16歳未満禁止なので入れない〔設定では、全員が15歳以下〕。その後、ラスイユがこっそりオープンマーケットに並んでいるブドウをつまんで食べたので、タターヴが止めに入る。ラスイユは、「僕のママ、新しい赤ちゃん欲しがってるの知ってる?」とタターヴに訊く。「デニだろ。何度も同じコト訊くな。ママさんは、お前を妊娠した時、レコード針でも呑み込んだのか?」。ラスイユは肩をすくめる(2枚目に写真)。その後、一行は別の映画館へ。そこでは、上映前にニュースを流している。ド・ゴール大統領の演説だ。「わが国による統制を取り戻すため、私は、フランスの名において新しい方針を採択する事にしました。この方針以外に、もはや途はないのです。アルジェリアをフランスの影響下に留めておく手段は、アルジェリア人によるアルジェリアしか。この決定は神意であり、アルジェリアの治安維持責任はアルジェリア人に委ねられます」。兄がアルジェリアに軍人として派遣されているジャン=ピエールが、「アルジェリアを、茶色の奴らに渡すなんて!」と怒ると、タターヴが、「アラブに任せるのが筋だ」と反論し、ジャン=ピエールは、「黙れ共産党め!」と罵る。アルジェリアに住めなくなって逃げてきたリュックは、「胸クソが悪くなる!」と言って席を立つ(3枚目の写真)。その後、映画が始まり、イザベルがパトリックに興味を示し、エリックが怒って出て行くシーンもある。
  
  
  

翌早朝、1960年9月21日(水)と表示され、ル・ブレヴァンに正面から朝日があたっている姿が映る(1枚目の写真、矢印はロープウェイの駅)。下の地図で、青字のシャモニーから「避難小屋」と記入したベル・ラシャ小屋の方に行ったと思われる()。地図をよく見ると、黄色の矢印の下にジグザグに上がっていく登山道が見えるはず。シャモニーの近郊はまだ標高が低いので大きな木がいっぱい茂っている。南側にはモンブランが斜め正面に見える。先頭を行くリーダーのパトリックが、リュックに「氷河が見えるだろ。50年後に来ても同じなんだ」と話しかけると、リュックは、「知ってるよ。氷が下まで行くのに40年かかるんだ」と雑学を披露する(2枚目の写真)。「将来は教師か?」。タターヴが突っ込みを入れる、「司祭にぴったりだ」。しかし、これは間違い。さっそく、「ラビだろ」と訂正される。一番後ろで、ギーがブルーノに、「学校やめるのか?」と訊くと、「仕方ないんだ。ウチは魚屋だから」と答える。「君は?」。「高校に行くけど、今じゃ、受からなければ良かったって思ってる」〔ギーの自分勝手な性格がよく分かる〕。しばらく歩いていると、ラスイユが空を見上げて、「見て! カモメ!」と叫ぶ。リュックは、「生物学を学ばないと。僕らと同じ鷲だよ」と教える(3枚目の写真)〔彼らは、「鷲団」〕

  
  
  

まだ山麓を登っている時、ラジオを聴いていたリュックが、「なぁ、みんな… 雨みたいだぞ!」と声をかける(1枚目の写真、伏線、かつ、史実)。空は晴れているので、誰も関心を払わない。その後、エリックとパトリックの間でイザベルについての口論がある。パトリックは年齢が近いためエリックがリーダー顔するのが不満で、彼女まで盗られそうだと恨んでいる。エリックは、「僕には、イザベルなんてどうでもいい! まともに トライしてみたらどうなんだ?」と諌める。その後の小休憩の時、ブルーノの肌が日焼けでもう真っ赤になっている(伏線)。これは、タターヴの「お前、真っ赤だぞ。そのうち火がつくな」の言葉で分かる。一方、ラジオを聴き放しのリュックは、「ラジオが入らない。電池切れだ」と言うが、予備の電池は持って来ていない。人懐っこいラスイユは、見晴らしの良い岩の上に立っているエリックに近づいて行き、「欲しい?」と何かを勧め、首を振られる(2枚目の写真、かなり高くまで登ってきたことを示すために挿入した)。2人は一緒に座る。エリックは、ラスイユがイザベルの弟なので、「イザベルに嫌われたかな?」と打診すると、「イザベルは、あんたが好きだよ。パトリックにくっついてるけどね」と前向きな返事をもらう。一方、アルジェリアで軍務に就いている兄から初めて手紙をもらったジャン=ピエールは、手紙を読んで悲しみにくれている(3枚目の写真)。少し下では、パトリックが「タターヴ」と呼びかけると、「ハイッ〔Présent〕」と答える。「点呼みたいだから止めろ!」。「難しいぞ。『ハイッ』を止めたら、ジャン=ピエールに10発殴られる。怒鳴る相手がいなくなれば、困るだろ?」。その時には、戻って来ていたジャン=ピエールは、「その “したり顔” に、頭突きを喰らわせてやる!」と威嚇する。2人の仲の悪さがよく分かる。
  
  
  

タターヴが足を見て、「げェ… 巨大な水ぶくれだ」と言い出す。「病院に行かないと」。リュックが、「他に、水ぶくれの人は?」と訊く。ジャン=ピエールは「俺もだ」と言う。リュックが持参した薬を持ち出し「始めよう」と言うと、ジャン=ピエールは「渡せ」と要求。「見せろよ」。「うるせぇな!」。親切に対し、こんな口を聞かれれば誰でもムッとする(1枚目の写真)。休憩を終えて、いち早くパトリックが歩き始める。ここで、エリックが、「あいつは道を知らない。でも、付いて行かないと」と不平を漏らす。ラスイユは、「道ぐらい知ってるさ。だから、リーダーになってるんだろ、タターヴ?」と訊く。タターヴは、「俺は、1+1=2 が分かるまで14年と3週間と5日かかった。だから、リーダーは…」と言いかけて、リュックが「何も、信じない?」と割って入る。「俺は何も信じない。失望しなくて済むからな」。それに対し、リュックは、背後に見えるモンブラン山塊を指して、「そうかな… この美しさは神の業だと思うけど」と言う(2枚目の写真)。その後の歩きながらの会話。ラスイユがタターヴに、「どうして、感化院にいるの?」と尋ねる。「何で知ってる?」。「みんな知ってるよ」。「俺は窃盗強迫症だ」。「それ、何なの? 深刻?」。すぐにリュックが説明する。「いつでも、どこでも盗むんだ。仕事場や、店屋や、学校で。何でも盗む。止められないんだ」(3枚目の写真)。「そうなの… 治療法は?」。今度は、タターヴ本人が答える。「心理学者のカウンセリング」。「それ何?」。リュック:「いかに 恐ろしいかを認識させるんだ」。タターヴの来歴と、リュックの雑学の深さがよく分かる。
  
  
  

「鷲団」は、岩のゴロゴロした場所を登って行く(1枚目の写真)。斜面の途中にロープウェイの廃棄施設がある。会話で、誰かが「これ何だ?」と言い(2枚目の写真)、エリックが「ロープウェイの駅… 爆破後の」と発言し、ギーが「ここは、アルジェリアじゃないんだ」と言う。それを聞いたジャン=ピエールが「黙れ」と咎め、リュックは「君んトコと違って、ウチは全員アルジェリアにいるんだ」と突っ込む。最後にパトリックが、「ここは、昔の駅だろう。近くに、新しいのがあるさ」と言うので、画面には映らないが、そのような廃墟があるのだろう。このシーンで一番分からないのが2枚目の写真の背後に映っている氷河。ル・ブレヴァンに氷河は存在しない。パトリックも地図を見ながら、「氷河のはずがない」と言う。いったいどうなっていののだろう? パトリックは 「1時間で避難小屋」と告げる。エリックは「なぜ そう思う?」と批判的に訊く。「戻れば4時間かかる」。エリックは、「暗くなって、道に迷うのは真っ平だ」と言って、下り始める。「迷わないさ!」。「懐中電灯で、ル・ブレヴァンを 探す気か?」。「何でそう、僕に楯突くんだ? 先に進もう」。その次に映された場所は氷河のモレーン。大きな石があり、リュックがラスイユに手を貸そうとする(3枚目の写真、矢印)。しかし、手が滑ってラスイユは転んで岩で左肩を負傷。以後 荷物を運べなくなる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

一行が登っていくガレ場の頂上に、ロープウェイの中継施設のようなものが見える(1枚目の写真)。そして、そこまで登り切ると山小屋が見えてくる(2枚目の写真)。正面に見えるのはモンブランだ。3枚目の写真は、ベル・ラシャ小屋から撮影されたモンブラン(http://www.peignee-verticale.com)。2枚目と比較して、角度が全く同じことが分かる〔「鷲隊」がどこの避難小屋に着いたかは別として、撮影はこの小屋の付近で行われたことになる〕。しかし、この小屋は閉鎖されていた。ブルーノ:「中で、寝れるかな?」。ギー:「ああ、ドアさえ破れればな」。一方、文句ばかり言うエリックは、「で、避難小屋はどこにある?」とパトリックを責める。閉鎖されているかどうかは別として、小屋は目の前にある。何を責めているのだろうか? 「僕だって、君と同じ位 困ってるんだ」。パトリックとエリックは対峙する(4枚目の写真)。実は、映画の後の方で、キャンプの指導者が「避難小屋で一泊して山頂に向かう」と指示したことが間違いで、映画の最後の方で、この小屋は閉鎖されていることが警察から指摘される。つまり、パトリックは「鷲団」を正しく導いてきたことになる。
  
  
  
  

年少の団員たちは、小屋のドアを破って中に入り、お菓子を食べ、ブルーノは日焼け止めを顔に塗る。一人真面目なリュックは、誰もいないカウンターにお金を置いてラジオ用の乾電池を買う。小屋に着いた初めの頃は、エリックが「来た道を戻ろう」と言ったのに対し、「バカ。日が暮れたらどうする?」と反対していた。しかし、年少組が小屋の中に押し入って荒らしたのを知ると、強く非難し、怒り任せて「片付けたら、すぐ出発だ」と言い出す。夜が近づいた時点で、パトリックはなぜ山を下ることにしたのか? 初心者だからとしか言いようがない。無人でも、避難小屋で一泊すれば遥かに安全なので、この決定は完全な間違いだ。さらに言えば、ここはまだル・ブレヴァンの頂上ではない。小屋に泊まって翌日の登頂を目指すのは必須のはずだ。そして、山を下るにあたり、パトリックはさらに重い判断ミスをする。ちゃんと地図を見ているはずなのに、「セルヴォスに降りるぞ。一番近い村だ」と言って、眼下に見える村に向かうことにしたのだ(1・2枚目の写真)。しかし、小屋からセルヴォスまでの直線距離はシャモニーまでの倍もある。地図を見ればそれは明白だ。この愚かな判断のもと、一行は斜面を西に下り始める(3枚目の写真)。下の地図には、一行が向かったであろうルートをとして示す。セルヴォス(Servoz)は地図の遥か左なので矢印で方向を示している。小屋から一旦降り後、また登るとは思えないので、一行は北に折れて谷を下ったに違いない。一番危険なルート選択で、もちろん登山道などは存在しない。

  
  
  

一行は下りながら、小屋での「盗み」のことを話す。ラスイユがパトリックに、「僕たち、逮捕される?」と尋ねる。「熊の仕業だと思うさ」。リュックがギーに、「もし、パパにバレたら、5年は謹慎処分だな」と言うと、「それだけ? 僕は殺されちゃうよ」との返事。「そんなに厳しいの?」。「うん、高校の教頭だからね。君のトコは?」。「元・不動産屋」。「今は?」。「フランスに来てから職がないんだ」(1枚目の写真)〔途中で、「ウチは全員アルジェリアにいるんだ」と言ったのと矛盾する〕。次のシーン。一行は湖のほとりで小休憩。あたりは暗くなりかけている〔この湖は、先の地図で、矢印線の屈曲部直前にある湖であろう〕。誰かがラスイユに話しかける。「怖いのか?」。「動物に囲まれてるモン。鷲、熊、クモ… もちろん怖いさ」。「“ダユー〔dahu〕” もいるぞ」。「それ何?」。「小さな獣で、右脚が左脚より短く、山腹を走り回るんだ」。「どうやって逆に回るの?」。「逆回りはしない。同じ方向に回るだけさ」。「時計回りだね」(2枚目の写真)〔ダユーはアルプスのフランス語圏で語る伝えられる山羊や鹿に似た伝説の動物〕。一行は再び歩き出すが、暗くてよく見えなくなったので、エリックが、「これが限界だ。ここで休もう」と声をかける(3枚目の写真)。もちろんテントなどは持参していないので、なるべく厚着をして草の上で寝る。
  
  
  

1960年9月22日(木)と表示される。辺りはまだ暗い。うなされてラスイユが目を覚ます(1枚目の写真)。パトリック:「どうした? 悪夢か?」。頷く。「なぜ、夢を見ると思う?」。「僕、悪い子だから?」。「まさか。寝てる間、退屈しないだろ」。タターヴは、「俺は 凱旋門の下で卵を料理してた」と笑わせる。ギーは、「6時だ! 一睡もできなかった」と叫ぶ(2枚目の写真)。現実的なのはリュックだけ。「これから、どうする?」と問いかける(3枚目の写真)。エリック:「戻るんだ」〔正解〕。パトリック:「そうかい、リーダー面か?」〔意固地〕。そして、「持ち物を詰めたらセルヴォスへ降りるぞ」と命令する。
  
  
  

一行は沢に沿って、道なき道を下っていく(1枚目の写真)。最早、無謀としか言いようがない。ラスイユが「寒いよ」と言うと、ひねくれ者のジャン=ピエールが、「メイドに、ココアを作らせたらどうだ?」と意地悪を言う。パトリックが、「日の出だ。じき、暖かくなる」と言い、それを受けて、「何で、ここには日が射さないんだ?」とタターヴが不審がると、リュックはさっそく、「“日陰斜面” だから」と答える。「それ何だ?」(2枚目の写真)。「日の射さない斜面。“日向(ひなた)斜面” の逆さ」。「お前 何で 物知りなんだ?」。「時間があれば、本を読んでるから」。「俺なら、本なんか読まずにボーッとしてる」。パトリックの行く手に垂直の崖が現れる。パトリックが、「これ以上は進めない。戻りながら道を探そう」と言うと、エリックは、「今さらなんだ、戻らんぞ!」とつっぱねる。リュックは、「二手に分かれよう。チャンスが2倍になる」と提案する。「どうやって再会する?」。「笛で合図するんだ」(3枚目の写真、矢印は笛)。そして、「問題なし」と「危険」を吹き分ける。パトリックは、この案に賛成し、エリック、リュック、ギー、ブルーノを別動隊として行かせることにする。「ダメだったら、ここで会おう」。エリックは、すかさず批判する。「それで? お駄賃は何だ? キャンディーか? 西部劇か?」。殴り合いになりそうな2人をリュックが、「後で やれよ!」と止める(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ここから、映画は、2つのグループの行動を交互に追う。パトリックのグループは、急な崖に遭遇する。パトリックは降りようとするが、ラスイユは恐怖で固まり身動きできなくなる(1枚目の写真、矢印はラスイユ)。タターヴが手を伸ばして何とかラスイユを救出する。パトリックは、別のルートで降りようとするが、ジャン=ピエールが、「畜生、もう、うんざりだ! ど阿呆め! 地図とコンパスで道案内したらどうだ! それが、山での常識だろうが!」と怒鳴りながら、勝手に引き返し始める。パトリックも、「戻って、みんなに合流だ」と言わざるをえない。そして、「危険」の笛を鳴らす。一方、エリックのグループは、巨石の点在する急斜面を降りる。エリックとギーは先に進み、リュックとブルーノが恐る恐る後を追う。先行する2人の姿が見えなくなったところでリュックは「危険」の笛を鳴らす。より下では、それまでエリックに付いてきたギーが、「僕には、キツすぎるよ」とギブ・アップ。エリックは、「じっとしてろ。見てくるから」と答える。ギーは、「強情なんだから! こんなの不可能だ!」と文句を言うが、エリックは無視して先に進む。ギーは引き返し始める。もっと上で立ち往生の2人にパトリックの「危険」の笛が聞こえたので、2人は引き返す。ギーも笛の音が聞こえ、ペースを上げる。1人残ったエリックは、岩を背にしたまま一歩も動けなくなり〔岩を背にして崖を降りてはいけない→エリックは完全に素人→単に、意地だけで行動している〕、「助けて!」と叫ぶ〔誰にも聞こえない〕。パトリックとリュックは互いに笛を吹き合い、両者は別れた地点で再会する(3枚目の写真)。エリックが欠けている。パトリックは、「エリックは、一緒じゃないのか?」と訊く。事情を知っているギーが、「どんどん行くんだもん」と答える。その頃、エリックは、何とか崖を降りて、滝の上まで出ていた。しかし、それまでと違い、岩は水分と苔で滑りやすく〔沢歩きは無謀そのもの〕、足を滑らせて滝に転落してしまう(4枚目の写真)。
  
  
  
  

パトリックとリュックは、下に見える渓谷に向かって「エリーック!!」と叫ぶが、何の返事もない。下に見える谷は、セルヴォスに流れ込むディオザス渓谷ではないかもしれない。なぜなら、2隊に分かれてから500メートル以上進まないと渓谷には出ないが、そんなに進めたとはとても思えない。恐らく、ディオザス渓谷に注ぎ込むブレヴァン谷(Ravin du Brévent)であろう。パトリックは「出発しよう」と決断する。ギーが「エリックを残したまま?」と訊く。「ブルーノは悪寒、ケガ人もいる。出発しよう」。リュックは「でも、エリックは?」と、決断に疑問を呈する(1枚目の写真)。「心配するな。彼は不屈だ。別の道を下ってるさ」。ここで、タターヴが口を挟む。「自分の身が大事」。これには、パトリックもカッとする。「名案でもあるのか? 面白い。リーダーになったら どうだ」と言って、ずっと運んできたラスイユのバッグをタターヴに投げつける。タターヴは投げ返す。パトリックは「もう うんざりだ」と地面に向かって投げる。ラスイユは「僕のだよ」と心配そうに言う(2枚目の写真)。パトリックはタターヴに怒鳴る。「2人が、動けなくなるまで待つのか? そうなったら、お前が背負って運ぶんか? 食べ物はないし凍えそうだ。行くしかないだろ」。こうして、全員が動き出す。下の地図では矢印の。もと来たルートを逆行する。ある程度戻ると、急に陽が当たるようになる。そして、一行は朽ち果てた廃屋を見つける(3枚目の写真)。行きにはなかったので、地図では西に折れたと推定した。

  
  
  

リュックは、さっそく面倒見のいいところを見せる。キャンプに届いた小包の中に入っていて、最後まで取っておいたハヌカのドーナツ2個を8つに切る(1枚目の写真)。そして、「最後のだよ」と言って配る(2枚目の写真)。タターヴは、もらっておきながら、お礼も言わず「模範的な団員を演じるの、飽きないか?」と嫌味を言う(3枚目の写真)。ギーも「僕にも、チョコが少しある」と言うが、配る気はない。その後、ジャン=ピエールが不機嫌な理由が分かる。キャンプに届いた兄からの手紙の中に、軍によって謀反人たちの虐殺を命じられたと書いてあったのだ。
  
  
  

一応 避難場所ができたことで、年長のパトリックとジャン=ピエールは救援を呼びに行くことにする。その会話を聞いたリュックは「危険すぎるよ」と心配するが(1枚目の写真)、パトリックは「そうかもな。だが、僕の役割だ」と言い、ジャン=ピエールは「エリックは行方不明、嵐が来るとなりゃ、ここで じっと待ってられねぇ」と言う。それを耳にはさんだラスイユが「みんなで一緒に行こうよ」と言い出すが、パトリックに「レ・ズーシュまで3時間かかる。助けを呼んで来るまで嵐をしのいでろ」と言われる(2枚目の写真)。下の地図では、が2人が取ったと思われるルート。パトリックが口にしたレ・ズーシュ(Les Houches)は、地図の下方(矢印の方向)にある。そこに行くには、このルートしかない。不思議なのは、3時間で行けると分かっているのに、なぜ前日にセルヴォスに向かったかだ。それが史実なのだから仕方がないが、不思議である点は変わらない。3枚目の写真で、2人は、雷鳴が轟く中、峠に向かって登って行く。
  
  

  

一方、廃屋の方では、雷とそれに伴う激しい雨を見越して、リュックが積極的に屋根の補修を行っている(1枚目の写真)。ブルーノは寝込んでいるし、ギーとラスイユはそのそばで固まっている。こうして、その一角だけは雨がかからないようにできた。雨が降り出し、ラスイユが「死んじゃうよ!」と怯える。リュックは、横に座ると、「大丈夫。雷さえ終われば嵐は終わる」と慰める。ギーが、「どうかな! ずるい奴が電池持ってるぞ! 僕はチョコ全部返したぞ」と怒鳴る〔電池に落雷すると思った。チョコは自分用にまだ隠している〕。リュック:「第一に電池は無関係だ。第二は僕は支払った」。彼は冷静だ。しかし、それを聞いたタターヴが、「電池、持ってるって? チョコがあれば、飢えずに済んだのに」と下らない言葉を吐いたので、さすがのリュックも、「黙れ、このクソ泥棒!」と口を尖らせる(3枚目の写真)。「何だと、このクソ狂信者!」。2人は取っ組み合いの喧嘩を始める。ギーは、その間に残しておいたチョコをこっそり口に入れると、リュックの雑誌を破いて火を焚こうとする〔ギーは、自分のものは自分のもの、他人のものはみんなの物と思っている〕。ギーは木の棒を回転させて火を起こそうとするができない。それを見て、ようやくタターヴがライターを渡す。それを見たリュックは、「君は、矯正不能だ」と宣言する。雑誌の紙に細々とした火が点く(4枚目の写真)。廃屋が隙間だらけなので、暖房の効果は分からないが、少なくともギーだけは暖かそうだ。
  
  
  
  

この間に、助けを呼びに行った2人は、なぜか登山道を外れ、お陰でジャン=ピエールが負傷するが、何とか道路に出ることに成功、通りがかったトラックに乗せてもらう。警察署では、パトリックが聴取に答えて、「避難小屋で一泊したら、尾根を歩く 予定でした」と述べる。署長は、「だが、ブレヴァンの避難小屋は、何年も前に閉鎖されてる」と言葉を返す。そして、「なぜ、教えなかった?」とボーイスカウトの指導者を糾弾する。「地図に載ってました」。署長は、「待避所がないと分かった段階で、なぜ登山道から外れたんだ?」と訊く。指導者は、自分の責任を棚に上げ、「そうだ! なぜ、セルヴォスへ向かった?」とパトリックを非難する。「暗くなってきて、明かりに向かったんです」〔その時は、地図を見て「一番近い村だ」と言った〕。署長:「君らは、絶壁のある峡谷に向かってしまった」。「何とか進もうとして…」。気が緩んだのか、自分たちの愚かさに気付いたのか、タダが外れたように笑い出すパトリックとジャン=ピエール。それを見た指導者が、「変な笑い方は止めて、質問に答えろ!」と食ってかかる。ジャン=ピエールは、「この ど阿呆」と呼びかけ、怒った指導者は、「立て、このバカ者!」と怒鳴る。激怒したパトリックは、指導者に飛びかかって突き飛ばす。署長は、自分の非を理解していない指導者に対し、「告訴されたら、君の立場は最悪だ」と警告する。ここで、1960年9月23日(金)に変わる。画面は、エギューユ・ルージュの側から見たレ・ブレヴァンのロープウェイとモンブラン(2枚目の写真)。救助隊は、下の地図に赤い矢で示したように、シャモニーからプランプラ駅〔標高1999m〕までロープウェイで登り、そこから、途中の支えなしのロープウェイでレ・ブレヴァンに向かう。この区間は、標高差は500メートル少々しかないが、途中の最大地上高は300メートルを超え、レ・ブレヴァンの直前では垂直の岩壁を登っていくようなスリルが味わえる。3枚目の写真は、プランプラ~レ・ブレヴァン間のロープウェイに乗っているパトリックと署長。他のメンバーも救助に向かう警官だ。地図にあるように、救助隊は一旦山頂に行き、そこから稜線を辿って避難小屋まで行き、西に下って廃屋に向かう。
  

  
  

廃屋の外では、リュックがタターヴに、「もう、ブルーノの目を覚ましておけない」と悩みを話している〔ブルーノは衰弱しているので、眠ってしまうと、死ぬことはなくても、全身麻痺に近い状態になる〕。すると、霧の中から犬の吠える声が聞こえる。2人は救助隊目がけて走っていく(1枚目の写真)。続いて、ギーとラスイユも廃屋から飛び出してくる。その後、5人がどうやってシャモニーまで戻ったかは不明。映画は、すぐに、エリックの捜索場面に移行する。パトリックはずっと同行している(2枚目の写真、赤い服がパトリック)。救助隊は渓谷まで来ると、歩いて降りられる範囲までは行くが、隊員の1人が断崖を指して、「彼には降りられない」と言う。隊長は、「それなら上を探そう」と指示する。署長と行動を共にしているパトリックは、「エリックは戻りたがってた」と後悔の言葉を口に出す。「僕らは、ずっと口論ばかり。僕が、先に進ませたんです」。「誰でも思い違いはある」。「彼が死んだら僕の責任だ!」(3枚目の写真)。署長は、カップに注いだ水を渡して「飲め」と言い、「君は 『ノー』 と言える立場にあった。しかし、間違った命令に 『ノー』 と言うには勇気が要る」と慰める〔間違った命令とは、ボーイスカウトの指導者の命令のこと〕
  
  
  

5人全員が入院させられた病院では、リュックが「僕は健康なのに、閉じ込められてる」と不満を言い(1枚目の写真)、看護婦から「半分凍ってたくせに、何が健康よ」とたしなめられる。ラスイユは、腕をちょっと触られ、痛いと叫ぶ(2枚目の写真)。こちらは、「タダの筋違いだから大丈夫」と言われる。タターヴは「肺炎で死にそうだ」と言い、「弱虫。タダの風邪じゃないの」と叱られる(3枚目の写真)。見舞いに来たジャン=ピエールが、ブルーノに「大丈夫か?」と訊くと、「体温が、下がってて…」と元気がない。
  
  
  

病院には、急を聞いた家族がやってくる。一番は、地元にいたラスイユの姉。姉は、ジャン=ピエールに「なぜ、エリックを一人にしてきたの?」と訊く。「彼は一つしか考えなかった… “谷を下る” こと」。ラスイユがサポートする。「姉さんに会いたかったんだ」(1枚目の写真)。ここで場面は変わり、ロープウェイの中。パトリックが映る。映画では、これまでも、パトリックの文通相手の女性からの手紙が時折 「独白」の形で流れてきた。しかし、筋にも子役の2人にも無関係なので省略してきた。このシーンでは、筋に関係するので紹介しよう。「アルジェリア人の血が、私を反抗的にさせるのかしら? でも、若い人達は、みんな蜂起に加わっています」。この言葉から、リュックとジャン=ピエールだけでなく、パトリックもアルジェリアと関係のあることが分かる。場面はすぐ、リュックを見舞いに来た父親に変わる。「聞くが早いか、母さんは 私を汽車に乗せた」。このことから、家族は、もうアルジェリアにいないことが確定する。「なぜ一人なの?」。「母さんは、ここの生活に向かないんだ。夏でも寒がってるだろ」。2人は肩を抱き合い、アルプスを見る。「とてもきれいだね、パパ」。「ああ、きれいだ。とてもな」。「でも、山って騙すんだね」(2枚目の写真)。「騙すのは、山だけじゃないぞ。ド・ゴールは我々を見捨てた。我々はアルジェリアに捨てられた」。ここで、1960年9月24日(土)と表示される。渓谷に壊れたサングラス、アルミ水筒、懐中電灯、雑誌が落ちている。警察にはエリックの父親がやって来て、署長に 「息子は どこだ?」と食ってかかる。署長は、「30人で探していますが、天候が不順でして…」と説明する。「まだ 見つけてない?」。「まだです」。一方、病室では、1日経過しみんな元気になっている。落ち込んでいるのはリュックだけ。ラジオでアルジェリアの音楽を聴きながら目を赤く泣き腫らしている(3枚目の写真)。ジャン=ピエールは新聞を見ている。一面に、「カビリア地方で殺された8人の山岳猟歩兵の遺体、送還される」と書いてある〔カビリア地方は、アルジェリアの地中海から60キロほど入った山岳地帯〕
  
  
  

その頃、渓谷で発見された4点がパトリックに示され、「これが、判るかね?」と尋ねられる。エリックの所持品だ。捜索用の小型飛行機が、崖に張りついている赤いものを発見する。「あそこに、何か見える。峡谷を渡ったのか?」。エリックは渓谷は危なくて自力で下れないし、発見されるには登るしかないと考え、ケガをおして崖を途中まで登っていた。一方、シャモニー駅にはジャン=ピエールの祖父が到着する。祖父の出発は、遭難のニュースより早かったので、ジャン=ピエールはいぶかっていたが、その理由がはっきりした。祖父は、ジャン=ピエールが遭難に巻き込まれてから訪れたのではなく、彼の兄が戦死したからやってきたのだ。映画の中で説明はないが、ジャン=ピエールが読んでいた新聞の「8人の山岳猟歩兵の遺体」の1人が兄なのだろう。エリックの遭難現場では、谷からの救助は不可能なので、崖の上からロープを使って署長自らが降りて行き(1枚目の写真、矢印はエリックの赤い寝袋)、しっかりと確保する。「もう死んだかと、あきらめかけてたぞ」。その夜は、シャモニーの花火大会。エリックが入った個室にイザベルが見舞いに来て、窓を開けて花火を見せる。そして、ベッドにもぐり込む(2枚目の写真)。ここで、パトリックから文通の相手への返信の「独白」が流れる。「エリックは幸運にも峡谷から脱出できて、ケガこそしましたが、谷の反対側の崖で救助隊に助け出されました」。その後は、背景が、残りの団員たちに変わり、手紙の言葉が続く。「ラスイユはボーイスカウトの団長になるそうです」。ここから、なぜか、手紙は過去形になる。数ヶ月後に投函したものとしか思えない。「タターヴは、矯正後、グランド・ホテルのベルボーイに雇われました。リュックと両親は、地中海の近くに移り住みました。ギーは勉強に戻り、歯医者か菓子屋になるんだとか。ブルーノは、両親と魚屋で働いてます。アルジェリアで兄を失ってから、ジャン=ピエールはトロツキー派に加わりました」。その時、看護婦が外に出ている団員の姿を見つけ、「何て、不真面目な患者なの!」とベッドに戻るよう命令する。その前に、記念写真を撮ろうと集まったのが3枚目の写真。手紙はさらに続く。「君は、『友情とは何か』って訊きましたね。僕には仲間が一杯います。でも、友達はたった一人だけです。それは、君。大人になった時、正しい選択をしたと言いたいものです。君は、いつまでも僕の友達です」〔これは、文通の相手からの、「あなたにとって友情とは何ですか?」という問いに対する答え。彼女は 単なる友人で、恋人ではないのだろうか?〕
  
  
  
  
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